ブライダル業界「ここだけの話」

結婚式場の元マーケティング責任者が、ブライダル業界の裏側を書いていきます。

結婚式場の悪口をお互いに言い合うに慣習に言いたいこと

結婚式場のプランナーからの営業は世のカップルが想像している以上に強烈である。もし、他の●●会場と迷っている、とでも言おうものならその会場の悪口のオンパレード。もちろん、熟練したプランナーであれば不快な思いをさせることなく丁寧に伝えていくのだが、経験の浅いプランナーが見よう見まねで話をしていくと自分の印象もろとも自爆して終わる。

 

通称「競合つぶし」

 

今回はこれについて書いてみようと思う。

 

 

競合つぶしとは?

ブライダル業界に限らず、営業はユーザーに買ってもらって(契約してもらって)意味がある職種である。ウエディングプランナーという職業も営業としての側面が強いので、会場に見学に来てくれたユーザーにいかに申し込みをしてもらうか、というのが企業としても個人としても重要だ。

 

ただ、その「申込してほしい」思考が行き過ぎると、かなり悲惨なことになる。

 

現在、結婚を考えて式場見学をしており、2つの式場で悩んでいます。
私はA会場をとても気に入っているのですが、先日見学をしたB会場で、A会場の悪口を言われてしまいました…。

気に入っている会場だったということもあり、否定された気がしてとてもショックでした。

 式場見学で他の式場の悪口を言われました。現在、結婚を考えて式... - Yahoo!知恵袋

 次の式場見学があるんでと切り上げようとすると、じゃあその会場さんに電話して伝えときますから私たちの話をもっと聞いてください」とめちゃくちゃごねる

 

あそこにしたらこんなことになっちゃいますからうちの方が良いですよ、的な別の会場の悪口を言いだす

結婚式場見学で考えさせられた、相手を想いやる姿勢の大切さ - LOGzeudon

 

このように、自分たちの会場で結婚式を挙げることがいかにそのユーザーにとっていかに価値があるか、という視点ではなく、他の式場で挙げることがいかにダメダメか、という視点で延々と話し続けるプランナーが少なからずいる。というか多数いる。

 

B会場のプランナーがA会場の悪口(しかも本当かウソかわからない)を言うことで、結果として気に入っていたA会場をキャンセルしてB会場に申し込むように仕向けること。

 

これが「競合つぶし」である。

 

実際、どんな悪口を言われるのか?

一言に悪口と言っても、その切り口は多様だ。

価格系

・A会場さんはだいたい皆さん500万くらいかけているって言われてますよ。

・契約してから見積りがすっごく上がるらしいですよ。

・値段が高い割にはチープみたいで、あんまりゲストからの評判良くないみたいですね。

 

会場の設備系

・A会場さんのバンケットは写真ほど広くなくて、むしろ狭いのでこの人数だと合いませんよ。

・A会場さんは天井が低いので圧迫感があるから息苦しくなっちゃいますね。

・最近はA会場さんのようにガーデン付きの会場が人気ですけど、冬は緑が枯れるし夏は虫が大量にわくので女性ゲストからは意外と不評なんですよ。

・逆にC会場さんのようなオフィスビルの中にある会場は、せっかくの非日常なのに現実感にあふれていて夢がないですよね。

・A会場は駅から遠くてヒールの女性やご年配の方々は大変ですよ。え、バスが出ててる?でも知らない人たちと会場まで無言でバス乗るのって嫌じゃないですか。

・A会場は導線的に花嫁がバッティングする、あっちにもこっちにもドレス着た人がうろうろしてますよ。

・A会場はチャペルとバンケットが離れているから当日雨降るとみんな濡れてしまいますよ。

 

アイテム系

・A会場は料理がおいしくないですよ。試食で出てくるのはものすごく高いコースのものですし。

・A会場はドレスの着数が少なくて、選べないですよ。あ、持ち込み料もかかるみたいなので結構高くついちゃいますね。

・A会場のサービスのスタッフ、全員学生バイトみたいなんですよ。せっかくの結婚式なのに・・・。

・A会場は披露宴時間が短いから、かなりせかせかした感じの披露宴になっちゃいますけどいいんですか?

 

などなど。

 

ざっと思いつくだけ挙げてみたが、結構ある。実際の接客の中では、ハード系の話であれば会場内覧中に話すこともあるし、価格系であれば見積り説明時に話すこともある。これだけ言われたらさすがにげんなりしますよね。

 

さらに、これらの情報に深みを持たせるために、「私、実は以前その会場で働いていたんですけど・・・、どうしても嫌いなところがあって辞めたんですね。それで今の会社に転職しました。それぞれの違いを知っているからこそ、自信を持って私たち会場をご提案しているんです」くらいのことは平気で言います。

しかも人によっては5割り増しくらいで言ってくる。

 

正直、怖い。 

 

情報収集の方法:競合見学

ここまで書いたようなことを、あることないこと言っているのかというとそうではない。実際に自分たちで見て聞いて研究してどうやって攻めるかを考えている。

 

でも他社の会場なのに見たことある?なんでそんなに詳しく知っている?

 

実は、実際のプランナー同士がカップルのふりをして競合会場に見学に行くというのが業界の中ではもはや常識となっている。

 

お互いにお互いの会場にこっそりばれないように見学に行き、写真撮りまくって、見積りをもらって申し込みをしないで持ち帰る。そのデータをもとに、ここを攻めようとかこうやってつぶそう、といった作戦を練る。会社によっては、個別の会場ごとのデータとその攻略法(営業トークスクリプトとも言うが)をマニュアル化し、新人プランナーに研修しているところもある。

 

とある大手B社の会場では、

「競合見学お断り。もし見つけた場合は罰金300万円請求します。」

といった張り紙があるとのうわさも聞いたことがあり、効果があるのかなのか定かではないが、いずれにせよどの会社もよく同時検討されるライバル会場の情報収集はあの手この手で行っている。

 

こんな業界慣習について言いたいこと。 

例えば、お付き合したいと思っている人がいるときに

A子は口が臭いからやめたほうがいい

B子は足が臭いからやめたほうがいい

C子は趣味が悪いからやめたほうがいい

D子は軽いからやめたほうがいい

 

ね?だから私と付き合いましょう!

 

とはならないですよね? 嫌だしこんな人。

ブライダルの営業も同じだと思っていて、A会場もB会場もC会場もD会場もだめだから、うちの会場でやりましょう!というスタンスが前提になっている接客マニュアルはやはりおかしい。

 

もちろん、他の会場も検討していて違いに悩んでいるユーザーがいれば、”違い”をきちんと説明してあげることは大切。要はそのスタンスの問題。

 

お互いの悪口を言い合うために競合見学に割いている時間も、さらにその対策のために割いている時間もお互いに無駄だし、何よりせっかく楽しみに見学に来てくれているお客さんがネガティブな情報ばかりを与えられてしまうというのが一番かわいそう。

 

いい加減、不毛な会場間競争はやめたらいいのに。

もっとユーザーへどんな提案ができるのか、それを時間として使ってもらいたい。

 

終わり。